線維筋痛症は原因不明のため、現状では残念ながら根治療法はありませんが、これまで数多くの薬物療法や非薬物療法が試みられてきました。治療原則は不必要な治療をできるだけ排除し、患者・家族に病気を理解し、受容し、睡眠の調整、適正な有酸素運動を行い、医療側・家族や周囲が患者を支援することです。
薬物療法は抗うつ薬と抗けいれん(てんかん)薬がしばしば使用される主要薬剤です。抗うつ薬は三環系抗うつ薬よりは副作用の少ないセロトニン選択的再取込阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)やノルアドレナリン作動性選択的セロトニン作動薬(NaSSA)などがもっぱら使用されます。我が国でもいくつかの抗うつ薬の治験が行われており、近い将来保険診療で用いることができます。抗うつ薬は疼痛の下行抑制系を賦活化(ブレーキ作用の強化)して痛みの緩和が期待されます。この薬剤は少量就寝時から始め、必要に応じて増量されますが、うつ病治療とは異なって、大量投与は行われません。一方、抗けいれん(てんかん)薬は従来薬ではなく、ガバペンチン(商品名ガバペン)、プレガバリン(商品名リリカ)などの新規型の抗けいれん(てんかん)薬の効果が注目されており、我が国でも2011年6月から保険適応となり薬物療法としての第一選択薬とされています。リリカ®少量も少量から漸増法で投与されます。発症早期症例の効果はかなり期待できますが、長期難治性で経過した症例では効果は限定的です。主な副作用はふらつき、めまい、眠気、だるさ、体重増加や浮腫などです。その他の抗けいれん(てんかん)薬も保険適応外ですがリリカ®が使用できない症例では処方されますが、そのなかでムズムズ脚症候群の治療薬でありガバペンチン
エナカルビル(商品名レグナイト)の効果が注目されています。
一方、急性の痛みなどにしばしば使われる消炎鎮痛薬(非ステロイド抗炎症薬;
NSAIDs)や副腎皮質ステロイドは無効であり、オピオイド系薬物(麻薬性、非麻薬性)も効果が限定的ですが、そのなかでトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン(商品名トラムセット)は慢性疼痛として線維筋痛症でもしばしば使用されます。その他にわが国では線維痛症の基礎薬物療法としてワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名イロトロピン)が使用されますが、単独では効果が弱く、点滴、トリガー治療として、あるいは他剤との併用が行われます。しかし、承認保険容量では不十分です。本剤も疼痛の下行抑制系の賦活作用により疼痛緩和に働くとされています。さらに、生薬である附子単独、あるいは附子を含む各種方製剤も使用されますが、前述の薬剤ほど効果に関して明確ではありません。。
一方、非薬物療法として鍼灸療法、マッサージ、リラクゼーション、ヨガ、気功などを含めた各種代替・補完医療も行われています。このなかで、科学的に有効性の確認されているのは認知行動療法と有酸素運動療法ですが、効果は薬物療法に比して弱く、また我が国では積極的に行える医療体制ではありません。
線維筋痛症の治療目標は痛みの完全な消失でなく、痛みやその他の自覚症状の緩和をはかり、病気発症で失った生活機能の改善を目指すことです。したがって、病気の理解と受容が重要であり、治療により日常生活機能(ADL)、生活の質(QOL)の改善、向上を目指すことが目標です。
このような観点から日本線維筋痛症学会では医療者を対象として「線維筋痛症診療ガイドライン」を作成し、我が国の線維筋痛症を取り巻く医療環境の変化を速やかにガイドラインに取り入れるために、2009,2011,
2013年と2年ごとに改定しています。
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